カノジョの葛藤

25歳、社会人、OL 子宮頸ガンークラス3a  そんなカノジョの葛藤

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彼女の回想

当時の記憶を呼び起こす

 

 

 

思えば、初期症状と言って思い出すのは

帰宅中の電車だ。

あれは入社2年目だったかな。

 

飲み会もいかず、残業を終えた電車の中で、

突然 寒気 めまい 頭痛 震え 寒さ 体の鈍さ

風の諸症状のような感覚が襲ってきた。

 

優先席…空いていない

手すりなら空いている

ドアと手すりのスペースに身を隠すように

ひたすら怒涛が通り過ぎるのを待った。

 

1  2  1  2  ・・・

 

こんな感じになったのは…

中学2年でバドミントンの大会前に

地元の駅で座り込んだ時かな。

 

もっとも、あれは、便秘だったがな。

 

あぁ   あぁあぁ

 

 

 

心臓の鼓動が早くなり、目の前が真っ暗になった。

 

1  2  1  2   ・・・

 

 

 

ただの貧血だ、という思い込みで耐える

 

足も震える

 

きっと仕事で疲れているんだ、と思い込ませる。

 

じわじわ汗が身体の表面に浮かんでくる。

 

大丈夫、もうすぐ最寄り駅…

もうすぐ…

 

 

1  2  1  2  ・・・

 

真っ黒になり思考停止になった脳裏によぎったSOSサイン

 

 

でも

 

ここで助けを呼んだら睡眠時間が短くなる

明日の仕事に影響がある

誰かに迷惑をかける

なにより私は大丈夫

 

気力で二本の足で揺れる地下鉄を踏みしめた。

地下鉄の揺れが憎らしい。

 

 

 

駅に着いた

 

コンビニ行って夕飯買わなきゃ

 

 

家について気が付いたら

スーツのまま、コートは玄関に

濃いメイクも落とさず

時計の針は深夜2時だった。

 

 

ねずみは体調よりも、明日の仕事を心配した。

そして次の日の仕事は通常通りの時間に起き

上司のプレッシャーや、契約がとってこられない自分に憤りを感じ

一日が過ぎた。

 

 

もうねずみは大丈夫。

 

地下鉄での葛藤も、忙しい日々にやられ

すぐに忘れた。

 

ただの一時的な貧血だ。

泥ねずみは毎日をこなすことで精いっぱいだった。

とりあえず働かないと、契約とらないと、

怒られないようにしないと、お金ないからコンビニで何食べよう

 

体調のことなんて忘れていた。

 

 

 

 

回想はもう少し続く

 

 

≪始まりはいつも突然に≫

こんなフレーズ、恋の歌でありそうだ。

 

 

でも現実は、恋でなくても起こるんだ

ということを身をもって感じた

 

 

病で。

 

 

始まりは…何だったんだろう。

原因は思い当たらないわけでもないけど

はっきりしたことはわからない。

 

思えば、感じたところもあったけど

仕事が忙しくていつも体調不良だったから詳細を感じ取ることが難しかったのかもしれない。

 

 

勤務先は、一生懸命働くことが善しとされている会社で

彼女も一生懸命に働く一員だった。

 

 

 

入社して3年目。

 

就職活動はリーマンショックという

時代の流れに流されて苦しい時代だったからこそ

せっかく採ってもらったという恩義も感じつつ、

彼女のプライドがだめになるカノジョ自身を救うことを拒否した。

 

 

思えば、就活時代

大手町や丸の内を歩きつつ、カフェに入りつつ眺めていた。

 

ランチタイムが終わるころ、一斉に席を立ついい年した大人たち。

そして彼らは一糸乱れず、会社のフラッパーゲートに吸い込まれていく。

まるで排水溝に流れていくネズミのように。

チューチューとおしゃべりをしながら規則正しく、そして大量に

排水溝に流されていく。

 

批判的横目で見つつも、こんなネズミになりたそい

そう心に感じていた。

 

そして彼女は大都会・東京のネズミになった。

 

 

ネズミになって、少額の現金を手にし

東京での一人暮らしをはじめ、自立した大人になれたことに悦びを感じた。

 

ネズミは寝坊しない、朝は決まった時間に排水溝に吸い込まれる

立派なネズミになった。

あこがれた排水溝生活にも慣れ3年の月日が経った。

 

毎日泥にまみれていたら、自分の感覚が分からなくなっていった。

ネズミの容姿は働くOLだし、定時退社とはいったい何なのからない。

毎日頭が痛かったし、おなかも痛かった。

荷物を片方にかける癖で背骨も曲がった。

だから何だ、今日は体の痛いところが3つしかない

だから今日普通の日だ。

 

着飾るメイクも服も脱ぎ捨てがたい。

今日はいつもの症状に加えて耳の聞こえが悪いから

少し体調が悪いかな。

 

でもネズミは休まない。

同期のネズミに負けないように、先輩ネズミに馬鹿にされないように。

 

そんな日々が続いたからかな、メイクで武装したラブリーなネズミは

気が付かなかった。

 

 

そんな彼女の回想は続く。

 

 

ゼロ

25歳の、晴れた日だった

 

カノジョが子宮頸がんだと知ったのは。

 

すこし気温が高くなってきて

すこし汗ばんでいて、営業マンにとっては外回りが少し楽になるそんな季節。

 

 

 

 

ごく普通に生きてきた

 

すこし頑張って生きてきた

 

すこし見栄を張って生きてきた

 

誰かに恨まれることでもしたのかしら

 

今まで悪いことでもしたのかな

 

 

 

そんなことを考えながら病院からの帰り道を

ただただ歩いていた。

 

「子宮頸がん、ですね」

 

なんだそれは。

 

おっと、

そんなことを考えていたら会社のホワイトボードに書いた帰社時間を超えてしまう。

仕事もある。

仕事がある。

日常がある。

 

 

どうしよう

どうしたらいいのだろう。

 

 

そんな彼女の思考を一部切り取って書いてみる。

 

カノジョ = ワタシ

カノジョ  ≠   ワタシ

 

 

 

別に私のことなんかじゃない